午前九時十二分
岐阜県某所にある和菓子店の裏口で、
私は水まんじゅう型の通信機を耳へ押し当てていた
透明な表面の中で、こしあん型ランプが赤く点滅している
🎧「こちら岐阜支部。応答せよ。本部、応答せよ」
返事はない
代わりに、隣でクロが水まんじゅうを一口かじった
🐈⬛「これ、通信機じゃなくて本物だよ」
🎧「だから応答がないのか!」
私たちは、潜伏調査を専門とする秘密エージェントである
岐阜支部に所属する我々のコードネームは――
「水まんじゅう」
命名したのは私だ
透明感があり、涼しげで、どこに置いても違和感なく溶け込み、中身には強いあんこを秘めている
潜伏調査員にふさわしい名前だと思った
🐈⬛「冷蔵庫から出すと、すぐ形が崩れるけどね」
🎧「弱点まで共有しなくていい!」
本日、我々には国家規模の重大なミッションが与えられていた
その名も――
「ザレゴト製作委員会の内部を徹底調査せよ」
近ごろ、Substack界隈に怪しい組織が誕生したという
その組織は、誰かが何気なく口にした戯れ言を拾い上げ、企画へ変え、連載へ育て、読者のもとまで届けてしまうらしい
しかも、完成された作家だけを集めるのではない
「書きたいけれど、何を書けばいいか分からない」
「一人では続かない」
「自分の表現が、まだ見つからない」
そんな人まで迎え入れ、一緒に面白がりながら作品を育てるという
放置すれば、日本中の下書きが完成してしまうかもしれない
眠る前に思いついた一言が、翌朝には連載企画になっているかもしれない
これは国家の睡眠時間を揺るがす重大事件である
🐈⬛「国家から依頼された証拠は?」
🎧「私が国家規模だと判断しました」
🐈⬛「つまり自主調査だね」
今回、岐阜支部に加わったゲスト調査員は、てるまに さん
ポンコツな日常を愛する3児の父で会社員なのに、ケーム機を加えている少年である
🐈⬛「君は、人のこと言えないと思うよ」
てるまにさんは、他人の面白さを素直に認め、そこから学ぶことができる
少し不器用で、よく椅子から転げ落ちるが、ライブ配信でマイクを握ると、誰かの魅力や自分の日常を楽しく紹介するDJへ変わる
この時の私たちは、まだ知らなかった
今回の調査で本当に警戒すべきものは、四人の奇人性ではない
部屋を一つ見るたびに、この委員会へ入りたくなってしまうことだったのだ…
潜伏用ギターケースの中に、ギターはない
発足記者会見当日
私たちは建物の裏手にある搬入口から、会場内部へ潜り込んだ
私はいつものネイビーの「BEATS!」キャップを深くかぶり、白いパーカーの上から黒いスタッフベストを着用
背中には、大きなギターケースを背負っている
ただし、中にギターは入っていない
収納されているのは、小型カメラ、集音マイク、無線機、暗視ゴーグル、伸縮式潜望鏡、変装用メガネ、つけヒゲ、非常食の鮎菓子、三枚の白紙の入会申込書だった
🐈⬛「最後の道具だけ、調査目的が変わってない?」
🎧「危険な組織だった場合、内部から監視する必要があるからね」
🐈⬛「入る気だね」
🎙️「入っていいの✨️」
🐈⬛「もう潜入の意味なくない?」
クロは黒猫なので、そのまま歩いていても警戒されにくい
私は「自然な潜伏」をすべく、途中で見つけた段ボールに入り、そのまま昼寝を始めた
一方、てるまにさんは清掃スタッフ風の作業着を身につけ、小型マイクを胸元へ隠している
手にはモップ
腰には洗剤
口には、なぜか二画面式の携帯ゲーム機をくわえていた
🎧「清掃スタッフがゲーム機をくわえる必要ある?」
🎙️「両手を空けるためです」
🐈⬛「ゲーム機を置く選択肢はなかったんだね」
🎧「それじゃあ行ってらっしゃい」
🐈⬛「君も行くんだよ」
私はしかたなく、段ボールから出て、潜伏先へと向かった。
会見場には、大きな白い幕が掲げられていた
赤い文字で、
「ザレゴト製作委員会 発足記者会見」
壇上には四人の主催者が並んでいる
・熱量を正装した変態紳士、どてらいさん
・冷静な常識人に見えて、独自の奇抜な装いを好む貴人、たけひささん
・何でも素直に学び、すくすくと変態・奇人へ成長しつつあるダークフォース、デン太郎さん
・かわいさの中に、もっとも予測不能な凶暴変人性を隠す、わくわくさん
🎧「顔ぶれだけで、すでに調査報告書が濃い」
🐈⬛「一番まともそうな人から調べよう」
🎧「たけひささん?」
🐈⬛「そう判断した時点で、もう罠かもしれないけどね」
私たちは記者席の最後列へ移動した
ここまでは完璧だった
潜伏開始から、二分五十二秒
残り八秒で、すべてが終わった
開始三分で、主役のように登場する
てるまにさんは目立たないように、最後列のキャスター付き椅子へ腰を下ろした
椅子が、すうっと後ろへ動いた
🎙️「あれ?」
片側の車輪が電源コードを乗り越え、椅子は斜め前方へ方向転換
そのまま緩やかに加速し、記者席の通路へ滑り込んだ
🎙️「あれあれ?」
最初は誰も気づかなかった
しかし、てるまにさんを乗せた椅子は、記者たちの間を縫いながら徐々に速度を上げていく
右へ曲がり、左へ曲がり、記者のバッグをぎりぎりでかわし、会場中央のレッドカーペットへ進入した
すべてのカメラが、壇上ではなく、滑走する清掃スタッフへ向けられる
🎧「潜伏開始から三分で、主役みたいな登場した!」
🎙️「止まり方が分からなかったんです!」
🐈⬛「この調査、静かに完遂する可能性が消えたね」
椅子は壇上の真正面で一回転し、ようやく停止した
てるまにさんは、会場中の視線を浴びながら立ち上がる
清掃用モップを片手に持ち、小型マイクを握りしめた
🎙️「もうどうにでもなれ!
てるまにの潜伏調査Substackライブ配信、
はじめるよー!!」
その瞬間、会場の照明がすべて消えた
暗闇を切り裂くように、オレンジ色の光がてるまにさんを包む
小柄な少年の体が、魔法少女のように回転する
作業着が光の粒へ変わり、黒いジャケットが生成される
首元にはヘッドホン
片手には高性能マイク
髪がふわりと立ち上がり、輪郭がきりっと整う
光が消えたとき、そこには長身のイケメンディスクジョッキーが立っていた
🎧「なぜ音声配信のみなのにイケメン!!」
🎙️「面白いからです」
🐈⬛「面白いなら、なんでも許されるわけじゃないよ」
🎧「面白ければ、スーパーロボット大戦争も良いかな?」
🐈⬛「話が終了するからやめようね」
私たちの会話が、会場の大型スピーカーから大音量で流れた
てるまにさんの小型マイクが、会場の音響設備へ自動接続されている
壇上の四人が、ゆっくりこちらを向いた
会場後方で、赤い警告灯が回転を始める
ウーッ、ウーッと低いサイレンが鳴った
🎧「水まんじゅう、撤退!」
🐈⬛「コードネームを大声で言ったら、潜伏の意味がないよ」
私たちは走った
こうして、極秘潜伏調査は開始三分で終了し、全世界同時配信の実況逃走調査へ変更された
第一の扉――言葉へ熱を入れる変態紳士
廊下の奥から、複数の足音が迫る
私はギターケースを左右へ振りながら走り、てるまにさんはイケメンのままマイクを握って実況を続ける
🎙️「ただいま岐阜在住調査団、全力で逃走中! わかモン調査員のギターケースには、ギターが入っておりません!」
🎧「機密情報を実況しないで!」
🐈⬛「ギターが入っていないことより、入会申込書が三枚あることを隠したほうがいいね」
🎧「そっちは最重要機密!」
正面に重厚な木製扉が現れた
考えている暇はない
私は取っ手をつかみ、勢いよく開けた
中には、格式のある紳士の書斎が広がっていた
革張りの椅子
深い色の本棚
整然と並んだ原稿
中央にはラジオブースがあり、マイクの前で誰かへ語りかける声が流れている
その言葉には、熱があった
ただ大声なのではない
読者を遠くから説得するのではなく、同じ机へ座り、目の前で話しているような温度だ
🎙️「第一の調査区域へ侵入! 文章には礼節、読者には誠実、言葉には異常な熱量!」
🎧「ここだけ見ると、完全に紳士だよ」
クロが、本棚の端を前足で押した
棚が静かに横へ動いた
その奥から、用途不明の仮面、奇妙な衣装、説明できない研究資料が姿を現す
🎧「紳士の奥から、変態が出てきた!」
🐈⬛「しかもいつの間にか”すっぽんぽん”になってるよ」
🎙️「忘れた頃に戻ってくる予測不能な変態性! しかし根底にあるのは、言葉を届ける相手への敬意! これぞ変態紳士、どてらいさん!」
廊下側から扉をたたく音がする
ドン
ドン
ドン
扉の蝶番が震えた
私は室内を見回し、机の下に隠された脱出口を発見する
しかし、その前に一枚の原稿が目へ入った
笑わせる部分は思い切り笑わせる
けれど、最後には人や作品の魅力へ戻ってくる
奇抜さの下に、書くことへの真剣さがある
うまく整えた言葉より、誰かへ届けようと投げ続けた言葉のほうが、遠くまで届く。
🎧「逃げてる場合なのに、ちょっと読みたい」
🐈⬛「だから危険なんだよ。入るたびに滞在時間が延びている」
扉が大きくきしんだ
私たちは床下の通路へ飛び込んだ
第二の扉――常識を管理する、虹色の貴人
狭い床下通路を這い進むと、頭上から規則正しい機械音が聞こえてきた
私は天井のふたへ両手を当て、ゆっくり押し上げる
そこは、巨大な企画管制室だった
壁一面に、連載予定、役割分担、読者導線、企画進行表が並んでいる
床へ落ちていた走り書きを装置へ入れると、タイトル、目的、担当者、届け先を持った企画書になって排出された
🎧「ここだ! 四人の中で一番の常識人の部屋!」
🐈⬛「その言い方、事故の前振りにしか聞こえないね」
🎙️「第二の調査区域へ潜入! ばらばらの思いつきを束ね、続く企画へ変え、読者のもとまで運ぶ司令塔――たけひささんの世界です!」
そのとき、部屋の奥から靴音が響いた
コツ
コツ
コツ
企画書の棚が左右へ開き、その中央から一人の人物が現れる
私は反射的に背筋を伸ばした
立っていたのは、たけひささんだった
ただし、黒いスーツではない
大きく広がった帽子には、紫、青、緑、桃色の羽根が波のように重なっている
つばの縁には色とりどりの宝石と金の鎖が垂れ、歩くたびに星や月の飾りがきらめいた
左右で色の違うサングラス
胸元には何重ものネックレス
肩からは虹色の羽根
衣装は鮮やかなピンクと深い青を中心に、エメラルド、紫、金色が混ざり合い、全身が移動式の宝石展示場になっていた
🎧「誰!?」
🐈⬛「さっきまで常識人だと思っていた人だよ」
🎧「企画は整理整頓されているのに、本人の情報量だけフェスの最終日!」
🎙️「冷静な企画設計と、視聴者の通信環境へ負荷をかける虹色の装い! これが奇抜なファッションを愛する貴人、たけひささんです!」
たけひささんは、派手な衣装について何も説明しなかった
ただ静かに企画書を一枚取り、赤いペンで目的と届け先を書き加える
宝石が光る
羽根が揺れる
作業は、恐ろしいほど正確だった
🎧「その服で、すごく普通に仕事するんだ……」
🐈⬛「服が奇抜だからって、仕事まで奇抜とは限らないからね」
🎙️「むしろ、常識を理解しているからこそ、安心して常識の外側へ出られるのかもしれません!」
たけひささんの部屋では、思いつきを面白がるだけで終わらせない
誰が何を担当するのか
どんな形なら続けられるのか
どこへ届ければ、必要としている読者と出会えるのか
散らばった戯れ言へ名前と役割を与え、一人では消えてしまうかもしれない発想を、歩き続ける企画へ変えていく
自由な発想は、設計されることで狭くなるのではない。誰かへ届くための足を得る。
その瞬間、警報音が一段階大きくなった
ウーッ!
ウーッ!
ウーッ!
企画管制室の奥で、巨大な装置がせり上がる
それは、黄色く輝くパイナップル型の灯台だった
表面には格子模様
頭部には鋭い緑の葉
最上部に取り付けられた赤色のライトが、激しく回転を始める
赤い光が、虹色の衣装、企画表、私たちの顔を順番に照らした
🎧「なんで企画管制室にパイナップル灯台があるの!?」
🎙️「岐阜在住調査団、赤色のパイナップル警報に捕捉されました!」
🐈⬛「報道する時間があるなら、逃げようね」
管制室の大型モニターへ、私たちの現在位置が表示される
赤い点が三つ
その周囲を、四方向から別の点が囲み始めていた
パイナップル灯台の赤い光が回るたび、包囲網が一段ずつ狭くなる
🎧「完全に見つかってる!」
てるまにさんは逃げるどころか、企画装置から出てきた一枚の紙を拾った
そこには、私たちの潜伏失敗と逃走経路が、すでに三幕構成の番組企画として整理されている
タイトル
目的
出演者
見どころ
想定読者
そして最後には、
「追い詰められた三人が、委員会への参加を検討する」
と書かれていた
🎙️「私たちの逃走が、もう企画になっています!」
🐈⬛「仕事が速いね」
🎧「感心してる場合じゃない! 未来のオチまで先に決められてる!」
赤いライトが、私のギターケースを照らした
ケースの中に隠した三枚の入会申込書が、なぜか急に重く感じる
そのとき、壁の非常口が音を立てて開いた
ただし、その先に続いていたのは普通の避難通路ではない
虹色のスポットライトが交差する、長いランウェイだった
左右には宝石、羽根、帽子、ドレスが並び、奥ではパイナップル灯台の赤い光が逃げ道を追いかけてくる
🎧「非常口までファッションショー仕様!?」
🎙️「常識的な避難経路を期待した我々の敗北です!」
🐈⬛「この部屋では、逃げるときもコンセプトを守るんだね」
私たちは虹色の衣装の間を縫い、赤い回転灯に追われながら、ランウェイの奥へ全力で走った
第三の扉――すくすく育つダークフォース
ランウェイの終点で、私は銀色の扉へ体当たりした
冷たい空気と、香辛料の匂いが押し寄せる
そこは明るく清潔な食文化研究ラボだった
世界各地の料理、食材の歴史、調味料の研究資料が並び、透明な容器の中では見たことのない食材がゆっくり回転している
🎙️「第三の調査区域! 食を素直に学び、『そんな話、初めて知った』へ変える研究者、デン太郎さんのラボです!」
🎧「ここは真面目な研究室だね」
奥の扉が、自動で開いた
中から、会話する親知らずが歩いてきた
さらに、存在しない食材を煮込む鍋が湯気を上げ、壁の時計は未来と過去を同時に指している
研究机の上では、「世間知らず」と書かれた怪異が、エプロンを着て料理していた
🎧「真面目な研究室が三秒で終わった!」
🐈⬛「成長が速いね」
ラボのモニターに、学習進行度が表示される
食文化
歴史
物語
怪異
変態
奇人
すべての数値が上昇中だった
🎙️「なんでも素直に学び、面白さを吸収し、現在すくすくと変態・奇人へ成長中! ザレゴト製作委員会のダークフォース、デン太郎さん!」
🎧「ダークホースじゃなくて、ダークフォースなの?」
🐈⬛「力そのものになり始めているからね」
そのとき、天井の換気口から追跡用ドローンが侵入した
赤い光が私たちを捉える
ピピッ
ピピッ
🎧「見つかった!」
私はギターケースを開き、伸縮式潜望鏡を取り出す
てるまにさんはマイクを構える
クロは調理台へ飛び乗り、前足でスイッチを押した
巨大な鍋から、白い蒸気が噴き出した
視界が真っ白になる
🎙️「岐阜在住調査団、食文化の蒸気に包まれております! なお、何を煮ているのかは不明です!」
🎧「知らないものを実況しないで!」
蒸気の向こうで、てるまにさんが一冊の研究ノートを拾う
新しく知ったことを、恥ずかしがらずに記録する
誰かの面白さを素直に認め、そこから学び、自分の表現へ育てていく
てるまにさんは、少しだけ実況の声を落とした
🎙️「知らないことは、書けない理由じゃないんですね」
🐈⬛「知りたいと思った瞬間から、もう書き始めているのかもしれないね」
知らないは空白ではない。新しい物語を書き込める余白だ。
蒸気が薄くなる
追跡用ドローンが再びこちらを捉えた
私たちはラボの奥にある冷蔵庫へ飛び込み、反対側の扉から転がり出た
第四の扉――かわいい顔をした最終危険区域
転がり出た先には、柔らかな光に包まれた森が広がっていた
丸くて、ふわふわした分身たちが、笑顔で手を振っている
小さな看板には、
「どなたでも、ご自由にお使いください」
と書かれていた
🎧「かわいい! ここなら隠れられる!」
🐈⬛「わかモンが安心した場所は、だいたい危険だよ」
🎙️「第四の調査区域! 自らをフリー素材として開放し、誰もが創作へ入りやすい入口を作る、わくわくさんの森です!」
分身の一体が、私へ花を差し出す
別の一体が、クロへおやつを渡す
さらに別の一体が、てるまにさんへ実況用の台本を渡した
🎧「優しい世界だ……」
その時、背後で……重い音がした
ガシャン
振り返ると、巨大な門が閉じていた
分身たちは笑顔のまま、私たちを円形に囲んでいた
森の奥では巨大な鍋が煮え、家具にはかじられた跡がある
倒れた木には、歯形
地面には、削る道具
遠くから、何か巨大なものがこちらへ近づく足音が響く
ズン
ズン
ズン
🎧「かわいさの奥に、一番やばい凶暴変人性がいる!」
🎙️「親しみやすさで警戒心を解除し、気づけば世界観の中心へ巻き込んでいる! かわいいは入口、凶暴な面白さが本館です!」
🐈⬛「説明している間にも、包囲が狭くなっているよ」
分身たちが一歩近づく
私たちも一歩下がる
また一歩近づく
また一歩下がる
背中が、大きな扉へ当たった
逃げ道はここしかない
私は取っ手へ手を伸ばす
扉には赤い文字で、
「関係者以外、開けると企画へ参加する可能性があります」
と書かれていた
🎧「開けたら参加させられるかもしれない!」
🐈⬛「開けなくても、かわいい分身に囲まれているね」
🎙️「選択肢は、参加するか、かわいく捕獲されるかです!」
🎧「どっちも委員会の中じゃん!」
私は扉を開けた
逃走の先にあった、白紙の企画書
まぶしい光が差し込む
扉の向こうには、広大な中央編集室があった
四つの部屋から、さまざまなものが運ばれている
どてらいさんの放送室からは、熱を帯びた原稿
たけひささんの管制室からは、企画表と読者導線
デン太郎さんの研究室からは、知らなかった知識と新しい疑問
わくわくさんの森からは、誰でも参加できるキャラクターと遊びの入口
ばらばらだった素材が、中央の机で一つの企画へ組み上げられていく
戯れ言がタイトルを得る
一言が連載になる
誰かの思いつきへ、別の誰かが笑い、知識、設計、熱を加える
そして、読者へ届く作品になる
🎧「この委員会、変人を集めて遊んでいるだけじゃなかった」
🐈⬛「遊びを続けられる形にしているんだね」
四人が面白いから、委員会が面白いのではない
四人が、それぞれ別の方法で誰かの面白さを拾えるから、世界が広がっていく
文章へ熱を加える人
思いつきへ道を作る人
知らない世界を持ち込む人
参加するための壁を壊す人
そして中央の机には、何も書かれていない白紙の企画書が置かれていた
てるまにさんが、ゆっくりマイクを下ろす
イケメンDJの声ではなく、普段の自分の声で話した
🎙️「ここは、完成された人だけが入れる場所ではないんですね」
会場のサイレンが遠くで鳴っている
追跡者たちの足音も近づいている
それでも、てるまにさんは白紙の企画書から目を離さなかった
🎙️「地道に書きながら、自分にしかできない表現を探している人も、誰かの面白さから学びたい人も、書き続けながら一緒に育っていける」
普段のてるまにさんは、少し不器用だ
椅子から転げ落ちる
潜伏開始三分で見つかる
けれど、他人の面白さを素直に認めることができる
マイクを持てば、その人の魅力を見つけ、自分の日常さえ楽しい物語へ変えて届けられる
てるまにさんは、今回もっとも調査対象に近い人物ではない
この委員会へ興味を持つ、読者にもっとも近い人物だった
自分の表現がまだ分からなくても、誰かと面白がりながら書き続けることはできる。
私は背負っていたギターケースを床へ置いた
金具を外す
ふたを開ける
中から、小型カメラ、マイク、無線機、つけヒゲ、鮎菓子、三枚の入会申込書が滑り落ちた
ギターは、やはり入っていない
🐈⬛「最初から、三人分の入会申込書を持ってきていたね」
🎧「危険な組織だった場合、内部から長期調査する必要があるから」
🐈⬛「かなり入りたい人の言い訳だね」
その瞬間、中央編集室の大扉が開いた
追跡者たちの影が伸びる
赤い警告灯が点滅する
てるまにさんが、再びマイクを握った
オレンジ色の光が全身を包み、小柄な少年からイケメンディスクジョッキーへ変身する
🎧「だから、実況するとイケメンになる理由は!」
🎙️「面白いからです!」
🐈⬛「説明は一歩も進んでいないね」
🎙️「それでは、岐阜在住調査団・コードネーム水まんじゅう、最終報告を開始します!」
てるまにさんの声が、会見場だけでなく、Substackライブ配信を通して全世界へ響いた
🎙️「組織の危険度、非常に高い!」
🎙️「常識人の人数、確認不能!」
🎙️「変人性、四方向へ拡大中!」
🎙️「創作継続力、極めて高い!」
🎙️「入会希望を取り消す理由――見つかりません!」
私は入会申込書をつかみ、白紙の企画書へ滑り込ませた
クロは前足で肉球印を押す
てるまにさんは配信終了ボタンを押した
光が消え、イケメンディスクジョッキーは小柄な少年へ戻る
その背後には、最初に乗ったキャスター付きの椅子があった
てるまにさんは、その椅子へ倒れ込む
椅子が動く
ゆっくりと中央編集室を横切り、開いた大扉へ向かって加速する
🎧「最後まで主役みたいに退場した!」
🎙️「止まり方が、まだ分かりませーん!」
🐈⬛「次の企画は、椅子の止まり方を学ぶ連載かな」
椅子は廊下へ消えた
その直後、向こう側から大きな音がした
ガシャーン
少し間を置いて、てるまにさんの声が聞こえる
🎙️「続きは、入ってから実況しましょう!」
こうして、岐阜在住調査団の潜伏調査は、開始三分で完全に失敗した
けれど、誰かの戯れ言を別の誰かが本気で面白がり、新しい企画が動き始めるまでの時間としては――
十分すぎる三分だった。













